第91章 恋した記憶、愛した事実《12》家康side
「あ、あの……手当てしたら、私は、すぐに退室します……。」
女の言葉に、顔を女の方へ向ける
「……信長様直々に、手当てすることを任されましたけど、信長様に言われたから、来たわけではありません。……私はあなたの怪我が心配なんです……。なので……私に、手当てをさせてください……お願いします。」
少し震えを滲ませた声。だけど強い意志が感じられる。頭を下げて、手当てをさせてくれ。とお願いしてきた。
「(……なんでここまで………)」
この女は必死に、俺に関わろうとするのだろうか。
秀吉さんと政宗さん、信長様までも、この女と俺を関わらせようとする。
そこまでさせる理由が、わからない。
それに……
『家康、お前は戦に同行することになった陽菜に、薬学を教えてたんだよ。信長様の命令でな。』
『まぁ、陽菜はお前の教え子ってことだな。俺もお前も、その戦で、陽菜に手当てしてもらったぞ。』
秀吉さんと政宗さんの言った言葉。もちろん、教えた記憶なんて全くない。だけど、これが本当なら、救護兵並の腕前はあると見ていい。
手当ての様子を見れば、この女のことを、少しはわかるのだろうか。
ちらりと女の手元をみると、爪先が白くなるぐらいに、薬箱を持つ手に力を入れている。
そこまで、必死な姿を見せられると、さすがの俺も、無下にはできない。
「……少しでも怪しい動きしたら、すぐに部屋から出ていってよね。」
女から顔を逸らし、仕方なしにそう言うと、俺は肩に掛けていた羽織を、肩から外した。
「………家康…お前……」
「すみません。政宗さん。食事は、手当てが終わってから頂きます。」
「…わかったよ。陽菜…手当てしてやれ。」
「っ……はいっ…!」
政宗さんの妙に嬉しそうな声。
そして女の安心したような声が聞こえた。