第91章 恋した記憶、愛した事実《12》家康side
「失礼します…」
薬を持って俺に近づき、一声をかけてから、肩の打撲傷に薬を丁寧に塗っていき、動きに制限をかけすぎないように包帯を巻いていく。
「(………想像以上だな……)」
包帯の巻き加減も、緩すぎないし、きつくもなく丁度いい。
「(……かなり手慣れてる…)」
薬を塗るときも、他の怪我に触れないように気を付けているし、力も入れすぎていない。
包帯を巻くときも、怪我をしている俺に負担がかからないように、無理な体制を極力させずに手早くしてる。
それだけでなく……
「(………優しい手つきだな…)」
手慣れてるだけじゃなく、「心配した」という気持ちが女の手から伝わってくる。
俺も手当てには慣れているが、この女の手から伝わる「温もり」は、俺には出せないだろう。
その「温もり」が、妙に懐かしいような気がするが……
なぜそう思うのかはわからない……
わからないことに、じわじわと焦燥感に煽られる。
「……終わりました。もう夜着を着てもらって大丈夫です。」
「(……っ…)」
考えてる間に、いつの間にか、両肩だけでなく、背中の打ち身にも薬を塗り終えていた。
「……そう…」
それだけ答えて、俺は夜着に袖を通した。