第90章 恋した記憶、愛した事実《11》
パタン………
部屋から出て、後ろ手で、静かに襖を閉めると……
「おう。陽菜。どうだった?」
廊下の柱にもたれ掛かっている政宗と、その横で腕を組んで立っている秀吉さん。
「……うん。もう手当て終わったよ…」
「ん。頑張ったな。」
ポンっと秀吉さんに頭を撫でられ、張りつめていた気持ちが緩んで、涙が出そうになった。
「……っ…部屋に、戻るね……」
少し震えた声。そのことに触れられたくなくて、返事も聞かずに、自分の部屋に向かって歩いていく。
部屋に入るなり、すぐに襖を閉めて、へなへなとその場に座り込む。
緊張、不安、悲しみ、少しの嬉しさ、この気持ちがごちゃ混ぜになって、涙がこぼれ落ちた。
「……あのときと…っ……同じ、言葉…っ…」
目をゴシゴシ擦りながら、以前に、手当ての腕前が、どれぐらいか知りたいからと、家康の腕に練習させてもらったときのことを思い出す。
―――
「へぇ…手際いいね」
練習で腕に包帯を巻かせてもらったのだが、まさか家康さんに褒められるとは思わなかった。
「(あんなに厳しいから、褒めることなんて、絶対しないと思ってた……)」
まさに、飴と鞭。
鞭だらけで、飴のひとつぐらい、あげたっていいじゃない。って思っていたけど、こんな形で貰えるとは……
「(でも家康さんに褒められると、認められたみたいで、すごい嬉しい!)」
「ありがとうございます」
―――
「(あのとき、すごく嬉しくて、帰ってお姉ちゃんに報告してたな。)」
そのときのことを思いだし、思わず微笑む。
「……ちょっとは、認めてもらえたのかな……」
あのときと同じ言葉。
だけど、嬉しさの意味は違う。
あのときは『技術』を認められて喜んだ。
さっきのは
『私』を認められたみたいで、嬉しかった。