第90章 恋した記憶、愛した事実《11》
「(……『しるし』も……昨日には綺麗に消えちゃったし………)」
帰ってきた日、責任者の方と手当てを交代して、家康の怪我の手当てをしていたときには、本当にうっすらだけど残っていた。
怪我をして戻ってきたけど、約束を守ってくれたことには変わりなくて、それは素直に嬉しかった。
だけど、昨日にはもう完全に消えていて……
そして、家康が私に付けてくれたものも、たぶん明日には完全に消えていると思う……
かろうじて家康と繋がっていたものが、一気に消えた気がして……、心の中は、不安で渦巻いている。
「(っ…駄目だ。こんなこと考えながら手当てしちゃ…!)」
自分が、強く何か思っていたり、考えている気持ちは、手から相手に伝わりやすい。
相手のことを想って、怪我が治りますように。と思いながら手当てをすれば、治りが早くなったり……
逆に「しんどい」「ツライ」などの負の感情を抱きながら、手当てをすると……
治りが遅くなることがある。
「(信長様にも、早急に治せ。って言われたから、ちゃんとしないとっ……)」
急いで頭の中を切り替えて手当てに集中する。
両肩の手当てが終わり、背中の打ち身に薬を塗り終えると、家康に夜着を着て大丈夫なことを伝えた。