第90章 恋した記憶、愛した事実《11》
秀吉さんと政宗は、手当てをする間、部屋から出ていった。
「手当ての邪魔しちゃ悪いから。」
と言っていたけど、たぶん、私と家康が、少しでも何か話せたらと思って、気を使ってくれたんだと思う。
今は何を話していいのか、全く思い付かないけど、とにかく家康の手当てに集中しようと、家康の褥の横に座った。
薬箱を開けて、怪我にあった薬を出して、包帯なども取りやすい位置にセットする。
準備が終わり、水の入った桶で手を清めていたら
「……なん、で……?」
え?
家康の呟く声が聞こえたような気がして、顔をあげると、私の行動を見ていたのか家康と目が合う。
「……っ…」
「……あ、の……何か…言い、ました……?」
「……………いや……何も……」
「…そう、ですか……」
フイっと顔を逸らされて、手当てをしやすいようにと、家康は夜着の袷を緩めだした。
「(……気のせいだったのかな……)」
清めた手を、清潔な手拭いで拭いて、薬を持って家康の身体に近づく。
「失礼します…」
声をかけて、肩の打撲傷に効く薬を塗って、稼働域などを気を付けながら、包帯が緩まないように丁寧に巻いていく。
「(……初めて手当てしたのも、肩だったな…)」
巻きながら、初めて戦に同行して、怪我をした家康に手当てしたときのことを思い出す。
あのときも、一度は手当てするのを断られた。
まだ家康のこと『好き』って気づいてなかったけど、でも、確実に家康のことを意識していたから、断られて、ショックだった。
今は……いろんなショックが入り交じっている……。