第90章 恋した記憶、愛した事実《11》

「……信長様直々に、手当てすることを任されましたけど、信長様に言われたから、来たわけではありません。……私はあなたの怪我が心配なんです……。なので……私に、手当てをさせてください……お願いします。」

「…………」


震えそうになる声を、必死に堪え、想いを伝えると、頭を下げて、お願いする。



「(……お願い……傍にいさせて……)」



誰も何も言わない無言の時間。
この静かな状況は、私にとっては、かなり不安を煽ってくる……。


……やっぱり、手当てさせてもらえないのか……
……そうなると、二度と口を聞いてもらえないのでは……


そして……




……私のことを、思い出してもらえないのでは………




どんどん、考えが悪い方に傾いていき、薬箱を持つ手が震えだす……
震えを止めるために、腕に力を入れ、薬箱を持つと……




「……少しでも怪しい動きしたら、すぐに部屋から出ていってよね。」



え…………



家康の言葉に、ゆっくりと顔をあげると……

肩に掛けていた羽織を、肩から外していた。



「………家康…お前……」

「すみません。政宗さん。食事は、手当てが終わってから頂きます。」

「…わかったよ。陽菜…手当てしてやれ。」

「っ……はいっ…！」



涙が出そうになるのを、グッと我慢して、薬箱をギュッと抱き抱えて、家康の褥に近づいた。