第90章 恋した記憶、愛した事実《11》
ズキ………
その言葉に、かなり私のことが嫌なんだと痛感し、胸が苦しく痛みだす。
「(……ここまで拒絶されるなんて……)」
恋仲になる前、勉強を教えてもらう予定にしていた日の、家康に拒絶されたときと重なり、さらに胸が苦しくなる。
「(…早く……部屋から、出よう……)」
家康の怪我は心配だけど、この状況で、手当てをさせてもらえるとは思わない………。
口を開こうとしたとき
「何言ってんだ。背中はさすがに一人で出来ないだろ。」
「なら、あとで家臣か女中にでもさせます。」
「あのなぁ…家臣たちより陽菜の方が、上手いだろうが。」
「は?」
秀吉さんの言葉に、家康の驚いた声を上げたのが、耳に届く。
「秀吉、家康は記憶ないんだろ?なら教えたことも覚えてないんじゃねーか?」
「あぁ……それもそうか。家康、お前は戦に同行することになった陽菜に、薬学を教えてたんだよ。信長様の命令でな。」
「まぁ、陽菜はお前の教え子ってことだな。俺もお前も、その戦で、陽菜に手当てしてもらったぞ。」
「……そう、ですか……」
三人のやり取りが終わると、チラッと家康の方を見る。
顎に手をあてて、何かを考えている様子。
その間に、秀吉さんと政宗に、ポンと肩を叩かれ、顔をあげて二人と目が合った瞬間、二人にウインクされる。
「(…秀吉さん……政宗…)」
私に勇気をかけてくれたのと、家康の記憶を思い出す、きっかけになるかもしれないと思って、この話をしてくれたような気がして……
「あ、あの……手当てしたら、私は、すぐに退室します……。」
勇気をもらっても、どうなるかわからないから、恐い。
でも、震えながら、私は口を開いた。