第90章 恋した記憶、愛した事実《11》
「家康、入るぞーー!」
政宗が声をかけるのと同時に、勢いよく襖を開ける。
開いた襖に反応して、家康の顔が、私たち三人に向けられる。
どうやら、自分で怪我の手当てをしているところだった。
政宗と秀吉さんは普段どおり、家康に声をかけているけど………
「…こ、こんにちは……」
私は、ぎこちなく挨拶をした。
「………何しに来たんですか。」
家康は、不機嫌なのを全く隠さない言い方で、私たち三人に向けて言っているけど、たぶん、私がいることが嫌なんだろう……。
「おいおい。その言い方はねーだろ。飯作って持ってきてやったんだぞ。」
「俺は、たまたま廊下で政宗と会ったから、付いてきただけだ。で、陽菜は、お前の手当てをしに来た。」
「は?」
秀吉さんの言葉に、目を大きく見開いて、家康は私を見るけど……
「………そんなの頼んだ覚えないけど。」
昨日みたいな鋭い視線を向けられ、耐えきれず、顔をゆっくりと俯けていく。
「(……やっぱり……迷惑だよね…)」
秀吉さんに今までどおりで。って言われたけど、幸せすぎた毎日から、出会って間もないときの状況に変わった今、今までどおりに家康と接することは出来ない……。
「こら。怖がらせるな。信長様直々の命だぞ。」
「そんなの聞いてませんけど。」
「まぁな。お前には言うな。と、言われたからな。」
「………」
家康のしかめた顔……。
薬学の勉強を教えることになったときと、全く同じ顔をしている。
そういえば、あのときも信長様の命令だったな……
と、あのときのことを思い出す……。
「………別にいいです。自分で出来ますから。」