第89章 恋した記憶、愛した事実《10》家康side
「………別にいいです。自分で出来ますから。」
肩や背中は出来ないが、あとで、家臣でも女中でも呼べばいい。
素性のわからない女に、任せるのは危険だ。
そして、この女がいると、秀吉さんと政宗さんから、聞き出すことが出来ないから、なんとか口実を言って、女を部屋から出そうとする。
「何言ってんだ。背中はさすがに一人で出来ないだろ。」
「なら、あとで家臣か女中にでもさせます。」
「あのなぁ…家臣たちより陽菜の方が、上手いだろうが。」
「は?」
秀吉さんの言葉に、思わず間抜けな声が出る。
家臣たちよりこの女の方が……?なんで……?
「秀吉、家康は記憶ないんだろ?なら教えたことも覚えてないんじゃねーか?」
「あぁ……それもそうか。家康、お前は戦に同行することになった陽菜に、薬学を教えてたんだよ。信長様の命令でな。」
「まぁ、陽菜はお前の教え子ってことだな。俺もお前も、その戦で、陽菜に手当てしてもらったぞ。」
「……そう、ですか……」
俺が、教えていた……?…この女が教え子…?
……全く記憶にないが、貴重な情報には代わりないから、そのことを頭の中に入れたとき
「あ、あの……手当てしたら、私は、すぐに退室します……。」
女がおずおずと、口を開いた。