第89章 恋した記憶、愛した事実《10》家康side
そう言った瞬間に、秀吉さんの目は大きく見開き驚いた様子。
信長様は、微かに眉を寄せて、俺を捉える目が鋭くなる。
「正気か?家康。」
「当たり前でしょう。なんで俺が嘘つかないといけないんですか。」
「なっ……一体どういう……?」
秀吉さんのオロオロした様子を目の端で捉え、直ぐに信長様の顔へ焦点を向ける。
「なら、秀吉の女の名を知ってるか?」
「は?」
秀吉さんの女なんて、城下にたくさん居てる。その女たちの名前なんていちいち聞かないし、聞こうとも思わないから、俺が知るわけがない。
「……知りませんよ。もしかして、さっきの陽菜って女が、秀吉さんの女ですか?秀吉さん、あの女のこと追いかけてたし。」
「お前……何言って……」
秀吉さんの顔が、さらに驚き……そして何故か怒気も滲ませている。
今にも俺につかみかかりそうだが、信長様はそれを目で制する。
そして信長様は、医者に顔を向け……
「一つ聞くが、さっき、頭を打った可能性があると言っていたな。それで記憶が無くなることもあるのか?」
「………なんとも言えませんが、可能性はあるかと思います。陽菜様のことを、覚えていらっしゃらないみたいですし……強く頭を打って、一時的に記憶が無くなっているのではないでしょうか…。」
「戻る術はどうだ?」
「……それはなんとも……。何分、私も初めてのことですので……。しかし、一時的に無くなっているとしたら、何かのきっかけで、思い出す可能性もあるのではないでしょうか……」
自信なさげな医者の声が、耳に届くが……
その言葉全てを、頭の中に入れることが出来ない………