第89章 恋した記憶、愛した事実《10》家康side
四半刻ぐらいして、秀吉さんと医者が部屋に入ってきた。
「遅くなって申し訳ございません。」
「構わん。すぐさま家康の怪我の状態を診ろ。」
「かしこまりました。家康様、失礼します。」
そう言うと、医者は俺の怪我を一つ一つ診ていく。
頭に触れたときに、ズキッと痛みが走り、思わず顔をしかめる。
「失礼しましたっ…!頭部で最後ですので……」
なるべく触れないようにと注意しながら、医者は頭部の怪我を診る。診終わると「ありがとうございました。」と言って、俺からゆっくりと離れる。
「どうだ?」
「はい。擦り傷、打撲傷、背中の打ち身、あとは、頭も打っているみたいですね。小さいこぶが一つありました。怪我は多いですが、どれも長引く怪我ではないと思います。丁寧に手当てもされているから、治りも早いかと……」
その言葉に、内心安堵する。
確かにあちこちに痛みは感じるが、どれも身体の芯にまで響く、重い痛みではない。
頭に触れられたときは、少し重い痛みを感じたが、今は感じないし、これならすぐに日常の政務も出来るだろう。
「そうか。ところで家康。陽菜と貴様はどういう関係だ?」
「?信長様?」
「は?なんですか。急に?」
「聞いているのは俺だ。早く答えろ。」
部屋に入ってきてから、信長様の聞いてくることは、全く訳がわからない。
「陽菜って、さっきまでこの部屋に居た女のことですよね……。あの女とは、ついさっき初めて会ったんですから、関係もなにもないでしょ。」