第89章 恋した記憶、愛した事実《10》家康side
「……つっ…、さすがに肩と背中は無理だな……」
怪我をしているのは上半身が多い。
とくに腕と肩に怪我が集中していて、腕はなんとか、包帯を口に咥えながら、片手でも巻けたが、肩はそうはいかない。
「(……誰かに来てもらうしかないか……)」
はぁ…と、一つ大きくため息を溢すと……
「家康、入るぞーー!」
その声と同時に開いた襖。顔をそちらへ向けると
「飯持ってきたぞ。」
「怪我の具合い、どうだ?」
重箱を見せる政宗さんと、世話をやきにきた秀吉さん。
そして………
「…こ、こんにちは……」
陽菜とかいう女。
「………何しに来たんですか。」
昨日と同じ組み合わせでやってきて、なんとなく……いい予感はしない…………。
思わず、不機嫌を隠さずに三人に向けて言う。
「おいおい。その言い方はねーだろ。飯作って持ってきてやったんだぞ。」
「俺は、たまたま廊下で政宗と会ったから、付いてきただけだ。で、陽菜は、お前の手当てをしに来た。」
「は?」
この女が、俺の手当て……?
「………そんなの頼んだ覚えないけど。」
女に向けて、鋭く視線を向けると、ビクリと肩を震わせて、おずおずと顔を俯けていく。
「こら。怖がらせるな。信長様直々の命だぞ。」
「そんなの聞いてませんけど。」
「まぁな。お前には言うな。と、言われたからな。」
「………」
信長様は一体、何を考えているんだ。昨日も部屋に来て、わけわからないこと聞いてくるし……