第88章 恋した記憶、愛した事実《9》
ポタ……
「っ…?……あ……」
薬箱の上に落ちた涙。
昨日のことを思い出していたら、自分でも気づかないうちに、涙が溜まっていたみたいで、頬を伝って静かに落ちていった。
すぐに、手でゴシゴシと目を擦って涙を拭う。
家康と恋仲になって一年……出会ってからは、もうすぐで一年半になる。
恋仲になるまで、いろいろあったし、恋仲になっても、いろんなことがあって、どれも大切な思い出だけど……
それを全て忘れられてるのは、正直かなりつらい。
特に祝言を挙げようって言ってくれた日は、二人にとって、とても大切な日になって………
だんだん考えが悪い方へと傾いていることにハッとする。
「(家康との祝言は保留になっただけで、破談になったわけじゃないし……)」
なんとか考えを、無理矢理にでも前向きな方向へと向けて、顔をあげる。
「すぅーー………、はぁーー………」
深呼吸を何度も繰り返して、気持ちを落ち着かしていく。
「(……大丈夫………大丈夫………)」
心の中で、何度も大丈夫と言いながら、震える足をなんとか出して……
家康の部屋まで、ゆっくり進んだ。