第88章 恋した記憶、愛した事実《9》
「………どうし、て……ですか……?」
理由は自分でもわかっている。
だけど、きちんとした理由を聞きたいのか………
震える声で、信長様に理由を聞く…。
「………今の家康と貴様のためだ。」
「……今の家康と…私の……?」
『今の家康』はわかるけど、『私』の方がわからない……。
「話は終わりだ。明日からは家康の手当てをして、奴を早急に回復させろ。」
「……はい。」
信長様は、返事を聞くと部屋を出ていき、部屋には秀吉さんと二人になった。
「………陽菜…。」
「秀吉さん……家康は…秀和くんのことも……?」
「あぁ。……秀和のこともだし、俺が祝言を挙げたこともだ…」
「……そうなんだ…」
私だけじゃなくて、秀吉さんの幸せな出来事も、忘れてしまったんだ……。
家康、秀和くんの頬を、優しい表情でつついていたのにな………
「…陽菜……、祝言のことだが……」
「……あ…、大丈夫っ!仕方ないことだから!家康、怪我してるし、記憶もないんだし……!こんな状況で挙げれるわけないよねっ!」
「………陽菜……」
「大丈夫だよ!とにかく明日から、家康のお世話をしっかりするね!」
「……あぁ。頼んだ……。何か困ったことがあれば言ってくれ。」
「うん!ありがとう。」
秀吉さんは、私の頭を数回撫でると、部屋から出ていった。
「………大丈夫……だよ………ね……?」
自分で言って、心が不安でいっぱいになる。
何が大丈夫なのか、わからないけど、今は、家康の記憶が戻ることに、すがるしかなかった………。