第87章 恋した記憶、愛した事実《8》家康side
「おいっ!陽菜っ!!」
秀吉さんが、あの女のことを『陽菜』と言って追いかけた。
「(……政宗さんじゃなく、秀吉さんの女か…?)」
まぁ、別にどちらでもいい。
とりあえず、名前はわかったし、何者かは用心しながら判断すればいいか。と思った瞬間
グイッ!!
「っ!!」
「お前………それ、本気か?」
政宗さんに胸倉を掴まれ、青い目を細め、睨み付けるように、政宗さんは俺のことを見る。
「……本気って何がですか?政宗さんの女って言ったことですか?」
「…………それだけじゃねぇ…。……お前の態度もだよ……」
かなり怒りを露にする政宗さん。話が見えない俺からしたら、何に対して怒っているのかも見当がつかない。
「………俺の態度に…なんで本気かどうか聞くんですか…。」
「……………そうかよ。」
胸倉を掴んでいたのを離すと、政宗さんは立ちあがり、開いたままの襖に手をかける。
「……お前がその態度なら、陽菜を俺の女にさせる。」
「…………」
「あとで後悔しても知らねーからな。」
ぴしゃん!!
言いたいことだけ言って、部屋から出ていった政宗さん。
「……………なんで俺が後悔するんだよ…」
とりあえず、さっきの政宗さんの言葉で、政宗さんの女ではないが、政宗さんが狙っている。ということだけがわかった。
「……それにしても、あの女……なんなの…」
あの女に握られていた右手。まだ、あの女の温もりが残っていて、思わず右手に視線を落とす。
「……なんで、俺の手を……?」
部屋で一人、問いかけるが、その答えを知っているものは、もうこの部屋にはいなかった。