第85章 恋した記憶、愛した事実《6》
「……陽菜様…」
「あ、あの……家康の様態は……」
責任者の方と、家康を挟んで反対側に座り、家康の様態を聞いていく。
「橋が崩壊したときに、木の裂けた部分で擦り傷がたくさんあるのと……川に落ちたときに、その衝撃で、背中も赤くなっております。あとは……川の流れが早く、馬も暴れていたため、岩などにぶつかって、怪我をしないようにと、家康様が庇ったため、打撲もたくさんあります……。」
「……っ、そ……うです…か……」
話を聞いて、余計に怪我が痛々しく見える。そっと家康の手に触れると、水の中に長時間いたからか、手はキンキンに冷えている。温めるように、両手で家康の手を握りしめる。
「……あとは、どうやら頭も打っているようで……」
「え……?」
「手当てしているときに気づきました。頭から少し、出血していて、こぶも小さいですがあったので……おそらく、打ったとのではないかと……家臣達も、川から引き上げるときには、もう気を失っていたと言っていたので……」
「……わかりました。………あのっ、後の手当て、私が引き継いでもいいですかっ?」
「もちろんです。陽菜様がしてあげた方が、怪我も早く治ると思います。」
何かありましたら、呼んでください。と言って、責任者の方は部屋から出ていった。
家康から手を離して、水の入った桶で手を清めて、順番に手当てをしていく。
擦り傷、切り傷、打撲………それぞれの怪我に効く薬を、患部に塗って、包帯を巻いていき、一通り怪我の手当てをして、片付けをしたら、冷たい家康の手をぎゅっと握りしめる。
「家康………おかえりなさい……」
大怪我をしているけど、帰ってきたことにはかわりない。
眠る家康の、冷たい唇に『おかえりなさいのキス』を落とした。