第85章 恋した記憶、愛した事実《6》
「なんでも、安土入りするときに使う橋が崩壊して……家康が馬と一緒に川に落ちた…。急いで家臣達が助け出したんだが、かなりの高さから落ちたから、あちこち怪我しててな……。ついさっき家臣が城へ連れて帰ってきたんだ。気を失ってて、まだ目は覚めてない……。」
「そ、んな………」
ガタガタと震えだす身体……。
大怪我で、気を失って、まだ目が覚めてない……
命に別状はないんだろうか……
もしかしたら、このまま………
どうしても考えが悪い方へと向いていき、そうなると、自然と顔も俯いていく……。
「陽菜。」
お姉ちゃんに呼ばれて、顔をあげると、真剣な顔をしていて
「看護師でしょ。家康さんの手当てしてきなさい。」
「お姉ちゃん………」
「家康さんが、陽菜を置いていく訳ないでしょ。」
そう言って、ふわりと優しい笑顔を私に向けてくれる。
「っ!…うん!」
返事をしたら、勢いよく立ち上がって、一目散にお城へと走っていった。
後ろから秀吉さんも追いかけてきてくれて、一緒にお城へと入ると、秀吉さんは家臣の方たちに話を聞きに、私は家康を休ませている部屋を教えてもらって、すぐに向かう。
「家康、入るね………」
静かに襖を開けると、褥の上に家康は寝かされていて、横には、初めて救護兵として戦に出たときにお世話になった、責任者の方が家康の手当てをしていた。