第84章 恋した記憶、愛した事実《5》家康side
視察へ向かって10日。昨日、雨が降ったが、そこまで影響はなく、崩落していた橋の完成が近づいてきた。
「もともと大きな橋でもなかったし、ここまで完成してたら、もう大丈夫そうだね。」
ようやく目処が着いてきたことに、ホッと安堵の息を吐く。
それに、あと半月すれば祝言もあるため、さすがにそろそろ安土に戻った方がいいだろう。
「あとは何人か残れば大丈夫だと思うから、俺はそろそろ安土に戻る。何かあったら早馬を寄越して。」
「承知しました。道中お気をつけて。」
村長に家臣を数人残し、俺は祝言のために、一足先に安土に戻る話をする。
「そうですか。お忙しいときに来ていただいてありがとうございます。徳川様、その方とどうぞお幸せに…」
「……あぁ…」
素直にお礼が言えない俺。陽菜にはすぐ言えるようになったけど……まだまだ素直になるには頑張らないといけないらしい。
残る家臣にいくつか指示を出すと、俺は馬に乗り、数人の家臣を連れて安土へと戻っていく。
馬をひたすら走らせ、あの橋を渡れば安土の地へ着くというとき
ミシ……
「……?」
馬が橋に踏み入れたときに聞こえた不穏な音。馬の速度を落とし、ゆっくり進ませていくが……
ミシ……ミシ…ミシ
ずっと聞こえる、木の軋む音。嫌な予感がして、速度を上げようかと思った瞬間
バキッ!!!
「っ!?」
どこからともなく木の割れる音。そして
「っ!?家康様!!!!」
家臣の叫ぶ声が聞こえた。