第84章 恋した記憶、愛した事実《5》家康side
それに………
「(そろそろ『印』が薄くなってきてるんだよな……)」
視察に向かう前日の夜。湯殿で陽菜を抱いたあとに、陽菜からつけてもらった『印』
これが消える前に視察から戻ると約束したが、このままでは守れそうにない。
「(それに陽菜の方も、薄くなってるだろうな。)」
結構濃くつけたから、俺よりも消えるのは先だろうけど……
「(……寂しくしてないかな…)」
たくさん『印』をつけたからといって、俺自身が傍にいるわけじゃない。だんだん寂しさも募ってくるだろう。
安土城にいるから、武将の誰かが、陽菜を構うのは目に見えてるが、ふとした瞬間に寂しさがやって来て、一人でその寂しさを堪えてるかと思うと、胸が苦しくなる。
「(……早く終わらせて、安土に戻ったら、とことん甘やかそう。)」
そう思うと、俄然やる気が沸き上がる。
まさか、女に対してやる気が起きるなんて、幼いときの自分では、想像つかないだろう。
「(あのときは、復讐とか、見返してやるって気持ちしかなかったしね…)」
陽菜と出会って、いろいろな感情を教えてもらった。
今では、復讐とかより、陽菜に対しての気持ちしか持ち合わせていない。
「家康様。村の田畑のことですが……」
家臣の声に、頭の中を陽菜から仕事に切り替え、家臣の話に耳を傾けた。