第83章 恋した記憶、愛した事実《4》
「あ、陽菜も一緒か。」
「うん。碁をしてて。秀吉さん、お仕事お疲れ様!」
「秀吉、何用だ。」
「はい。明日の謁見のことですが……どうも大名が、信長様ゆかりの姫に会いたいと申しているみたいで……。……どうしますか……?」
不安そうに聞く秀吉さんに、信長様は少し思案している。
今まで、何度か謁見の場に同席したことがあるから、私は構わないけど…。
「やめておけ。あの大名に会わせると面倒だ。明日陽菜は、謁見が終わるまで、部屋から出るな。」
「へ??」
「承知しました。陽菜、そういうことだ。明日は大人しく部屋で過ごせ。」
「え?な、何で?同席ぐらいならするよ?」
いつもなら、面白半分で信長様が同席させたりしてるのに……
「……その大名、女癖が悪いんだ。ところ構わず、女に手を出そうとするし、何度か女中も手を出されそうになってな……。信長様ゆかりの姫が、どういう姫なのか、お目にかかりたいだけだろう。たぶん謁見は二の次だろうな。」
「………そうなんだ。」
大事な謁見が二の次って……よっぽどの女好きなんだな……。
「家康不在の間、変なことで心配かけたくないだろ?明日は大人しくしとけ。」
「うん。わかった。」
返事をしたら、ポンポンと秀吉さんに頭を撫でられる。
「陽菜、碁は終いだ。仕事に戻る。秀吉、来い。」
「はっ。」
「あ、じゃあ片付けておきます!」
そう言うと、直ぐに碁石を白黒に別けて、入れ物に直していく。
信長様と秀吉さんは、もう広間から出ていた。
「……明日、何しようかな……」
謁見がすぐ終わるかわからないし、ある程度、部屋で出来ることを考えとこう。
本当は、お姉ちゃんのとこに行きたいけど、この時代は、出産後、少しの間は会えないらしい。
家康にもお姉ちゃんにも会えず、はぁ…とタメ息を溢す。
「……家康に会いたいな…。」
今頃、視察の地に着いたかな。夜はゆっくり休んでほしい。
家康のことを考えながら、碁石を片付けていった。