第9章 動き始めた恋心〈7〉家康side
天幕にはすぐ着いた。まぁこの距離だから当たり前だけど…
「家康さん、この距離なのに、ありがとうございます。」
『家康さん』。そう呼ばれるのに今まで気にもしてなかったけど、
「…あのさ…」
「?はい」
「いつまで敬語と、さん付けなの?」
「へ?」
「秀吉さんや政宗さん、三成にもため口なのに、なんで俺だけ?」
さっきの会話を思い出すと、自分だけ敬語なのがかなり嫌だった。
「え?それは薬学教えてくれてる先生だし、ため口は失礼じゃないですか…」
それはそうかもしれないが…
「あんたの面倒一番見てるのは俺でしょ。いちいち畏まらなくていい。うっとうしいから。」
「え?でも、家康さん…」
――ムッ…―――
「『家康』」
チョンと指を陽菜の唇に触れる
「!!!」
「はい。練習。『家康』」
指を触れたまま陽菜の顔をじっと見る
「…い、いえや、す…」
聞こえるかわからないぐらいの声
でも、俺にはしっかり聞こえた
自分の名前を陽菜がさん付けでなく呼ぶのが、こんなにも、胸が高鳴り焦がれるとは思わなかった。
どうしようもなく、
嬉しい
唇に触れてた指を離し
「うん。そっちのがいい。」
無意識に優しく微笑みながら、頭を数回撫でた。
「じゃあ、俺行くから、早く寝なよ。」
「え?あ、は……いや、うん…おやすみ…」
「おやすみ」
そう言って、家康は歩いて行った。