第76章 お医者さんごっこ part2 家康side ※R18
「……ケホっ、コホっ…完全に油断した…」
翌日、家康は風邪をひいて、褥から出れずにいた。
昨日の寒気は、佐助のよくわからない視線のせいかと思っていたが、風邪の前兆の寒気だった。
幸い、今日は軍議もない。熱は高そうだが、さっき薬も飲んだから、今日一日休めば熱は下がるだろう。
一日の激しい気温差に、自分の体が付いていかないとは……
「…コホっ……まだまだ弱いな……俺は…」
そうポツリと溢し、目を閉じて家康は眠りについた。
ひんやり冷たいものが、額に触れたのを感じ、家康はゆっくり目を開けた。
「あ、ごめんっ……起こしちゃって……」
視界に、心配そうな陽菜の顔が入る。
「…陽菜……?…なんで……」
今日は、陽菜が来る予定はなかったはず…
「世話役の仕事で文を持って来たんだけど、家臣の方から家康が風邪ひいたって聞いて……」
文を家臣に渡したら、急いで城に引き返して、今日は世話役の仕事を休みにして、俺の看病をさせてくれと、信長様に直談判してきたらしい。
「今日は、私が家康の看病するから!遠慮せず、なんでも言ってね。」
笑顔でそう言う陽菜に、心がざわめく。
「……いいよ。陽菜にうつしたら悪いし……寝てたら治るから、陽菜は城に帰りな…」
陽菜の方に背を向けて寝返りをうつ。
陽菜の気持ちは素直に嬉しい。だけど言ったことも本心。それに、弱った姿を惚れてる女に見せたくないのも本音。
「…え……でも、家康のこと心配だし……」
「俺は大丈夫だから。帰って」
思わず、強めの言葉で言ってしまい、しまった!と思い、謝罪しようと起き上がろうとしたとき
「…とりあえず、お粥作ってくるね。」
陽菜が部屋から出ていく姿しか見えなかった。
「…何やってるんだよ……コホっ」
陽菜は悪くないのに、自分の変な意地で、傷つけてしまう。
幼少期の人質生活で、人に弱みを見せずにいたため、甘えなれていない。
たぶん、これが一番の理由かもしれない。
「(戻ってきたら謝ろう)」
陽菜が出ていった襖を見ながら、家康は心に思った。