第8章 動き始めた恋心〈6〉
あのあと、救護用の天幕へ向かったのだが、家康さんの姿はなく、
『家康様から言伝を預かってます。陽菜様がここへ来られたら、明日のために今日はもう休むようにと。』
『え…でも私だけ休むわけには…』
『我々も交代しながら休みますので、お気になさらず』
『じゃあ、私も少し休んだらまた来ます。』
『いえ!織田家ゆかりの姫様にそこまでしていただくのは、申し訳ないです!あとは我々にまかせて、陽菜様はゆっくりお休みください!』
『え!あ、ちょっ…』
グイグイと背中を押され天幕から追い出された陽菜は、仕方なく自分の天幕へと戻ることにした。
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「眠れない……」
天幕へ戻って横になれば眠れるかと思ったが、なかなか寝つけないでいた。
「…やっぱり、救護用の天幕に行こうかな…怪我した人達のことも気になるし…」
でも休んでくださいって言われたし…
戦の最中だからか、1人で居るのは何か落ち着かない。
気持ちを落ち着けるため、外の空気でも吸おうと天幕を出ると…
「(あ、焚き火…)」
なんとなく、火のそばに行って腰をおろす。
何かを考えるわけでもなく、ただただボーっと火を見ていた。
どれくらいの時間、そこに居たのだろうか
「おまえ、何やってんだ?」
背後から声をかけられた。