第57章 恋から愛へ《16》家康side
「では、軍議を始めます。先日、織田傘下に入った大名ですが…………」
「――……あの村で盗賊が……………」
「明日からの偵察の件ですが……………」
戦が終わっても、武将達は忙しい。
戦前にある程度終わらせていた仕事量が、帰ってくると、倍近く増えており、皆が各々の仕事を捌いていった。
書簡整理、偵察、城下の見廻り、新しく織田傘下に入った者の調査、さらに家康や政宗は一国一城の主のため、自国の内政を文でやり取りなど、あまりの多さに、時間が過ぎるのは早く、陽菜が居なくなって三月が経った。
そして家康は、どれだけ仕事に追われていても、城下で陽菜を探すことだけは、毎日していた。
「失礼します。お茶をお持ちしました。」
信長様が前以て言っていたのか、軍議中だが、香菜がお茶とお茶菓子を持って広間に入ってきた。
「香菜、ご苦労。」
「いえ。皆さん、戦が終わっても休む暇がないぐらい忙しいんですね……休めるときは、休んでくださいね。」
香菜が一人ひとりに、お茶とお茶菓子を渡していく。
「貴様達、針子も忙しくしているではないか。兵達全員の羽織の修繕は大変だろう。」
「はい。以前のときより大きな戦だったので、針子さん全員大忙しです。依頼されても、納期が遅くなると皆さん前以て言っていますよ。」
……そういえば、前、香菜が修繕したのを陽菜が持ってきてくれたな。
あのときの、陽菜の震えた声………
忘れたことはない…。