第57章 恋から愛へ《16》家康side
夜、顕如討伐を勝利に納めた祝宴が始まり、安土城広間は賑わっていた。
「家康さん」
「………香菜…」
御膳のおかず全てに唐辛子をかけ、一人もくもくと食事をしていた家康に、香菜は声をかけた。
「お疲れさまです。どうぞ」
「……どうも…」
銚子を傾けられ、杯に注がれた酒を一気に飲み干し、香菜にも銚子を傾ける。
「ありがとうございます。」
「別に…」
家康が注いだ酒を香菜はゆっくりとだが、飲み干した。
「(そういや、陽菜は前の宴では飲んでなかったな…)」
ふとしたときに考えるのは陽菜のこと。
陽菜と過ごした時間や、あの子は今どう過ごしているのか…
戦のときは陽菜のことは考えていなかったが、終わった瞬間、陽菜が安土に帰ってきていることを、すごく願っていた家康。
しかし、安土城が見えたとき、陽菜の姿はなく、秀吉と香菜の姿しかなかったことに、少なからずショックを受けていた。
家康と普段あまり接点のない香菜
たまたまだが、城下で陽菜を探している家康の姿を見たことがあった。
そして、今日秀吉と城門で出迎えていたときに家康の落胆した表情を見て、自分と同じくらい、もしくは、それ以上にすごく心配しているのだと思った。
「………陽菜、必ず戻ってきますから。」
「……」
「あの子、やり残したことがあるから。」
「…やり残したこと?」
それはいったい何なのか?
聞こうとしたとき、香菜は信長様から声がかかる。
「待つしか出来ないですけど、信じて待っててください。」
香菜の陽菜を信じきっているその強い言葉に
「…わかった」
家康は返事した。
「じゃあ、私、信長様に呼ばれたので失礼しますね。」
香菜はニコリと微笑み、立ちあがって、上座に座る信長のもとへ向かった。