第50章 恋から愛へ《9》家康side
その光景を見て家康は、また廊下の角に隠れ、壁に背を預けた。
「…………」
あの日、軍議が始まる前に、陽菜に遣いを頼んだと言っていた秀吉さん。
「(ずっと、自分の責任だと思っていたんだな……)」
香菜の言うとおり、誰も秀吉さんのせいだなんて思っていない。
でも秀吉さんは、陽菜が戻ってくるまで、自分を許すことはないだろう……
「こら。立ち聞きとか趣味悪いぞ。」
コツンと頭を小突かれ、パッと顔を上げると、普段通りの笑みをしている秀吉さんの顔があった。
廊下をチラッと横目で見ると香菜の姿はもうなかった。
「すみません…立ち聞きするつもりは全くなかったんですけど……」
「わかってるよ。あの雰囲気じゃ、出るに出れない。悪かったな。」
「いえ……俺も別のところから行こうとしてたんで……」
「そうか……」
「秀吉さん?」
切ない声の秀吉さんに、思わず声をかけると
「惚れてる女の泣き顔は、見てて辛いな」
憂いを帯びた表情で、ぽつりと言った。