第5章 動き始めた恋心〈3〉家康side
「……嫌です」
「何度言っても聞かん。俺の命は絶対だ」
軍議が始まる前に、とんでもなく面倒くさいことを言う信長様。
「俺じゃなくても、他の救護兵に任せたらいいじゃないですか」
「使用してるのは、ほとんど貴様が調合した薬だ。貴様が直接教えた方が早い」
「……それはそうですけど…」
「秀吉と政宗の報告によると、手当てに慣れてると言っていたようだしな。しかも、貴様に噛みつきながら言ったそうだな。秀吉と政宗が笑いながら話しておったぞ」
あぁ、あのときの……
『手当てをするのが面倒な人に、嫌々手当てされたら、治るものも治らないんで。』
『道具さえ貸して頂いたら私がします。手当てには慣れているんで!』
……思い出したら、また腹立ってきた
「救護の人手が足りん。と言っていたのは貴様だ。それに、自分で手当てに慣れてると言うぐらいだ。全くの素人ではないだろう。陽菜を戦までに使えるようにしておけ」
「……承知しました」
ため息を吐きながら天主を後にし、このあと開かれる軍議のために重い足取りで広間へ向かった。
広間に入ると、すでに姉妹は末席におとなしく座っていた。なぜ呼ばれたのかわからない。という顔をして。
信長様が来て上座に座ると軍議が始まった。
戦が始まることに、不安げな表情をする姉妹に信長様が
「この戦に陽菜、貴様を連れて行く」
「な…!なんでですか!?」
「なんでもなにも、貴様らが幸運をもたらすからだ。
二度も俺の命を救ったのだ。この戦でも勝利を導け。」
「そ…そんな……」
陽菜の顔からはだんだん血の気がひいて、膝の上に置かれた手が小刻みに震えている。
「(こんなに震えて弱そうな女に負傷兵の手当てなんて出来んの?)」
「それに陽菜、貴様は手当ては慣れていると聞いたが、慣れているのか?」
「…はい。ここへ来るまでは、えっと………医師の補佐をする仕事をしてたので、ほぼ毎日、怪我人の手当てをしていました……」
「(医師の補佐?ってことは素人じゃなさそう…)」
「では、その手腕をこの戦で存分に活かせ」
「……わかりました…」
「あぁ、それと、戦に行くまで家康の元で薬のことを学べ」
「……は?」
思ってもいなかったことを言われたからか、目も口もかなり開いた顔をしてる。