第29章 近くて遠い恋《15》家康side
「……香菜が心配してるから城に帰るよ……」
「あ、うん……」
くるっと背を向け、歩きだそうとすると
ドサっ
後ろから転ける音がして振り向き、陽菜に近寄る
「……どこか怪我したりした?」
「…あ、足の裏切っちゃって……」
「…え?……あぁ…結構深いね……」
陽菜の足を見て、顔をしかめる。
「(こんなになるまで走り続けていたのか…)」
あんなこと言わなければ、陽菜がこんな怪我をすることもなかったのに……
「(全部俺のせいだ……)」
こんなにも弱い自分が許せなかった
「あの、ゆっくりなら歩けるし、応急処置だけしたから、大丈夫!ごめんね!迷惑かけて!」
そう言って立とうとする陽菜に、背を向け今度はしゃがんだ
「乗って」
「え?」
「その足じゃ歩くの辛いでしょ。早く手当てもしないといけないし」
「あ、でも…迷惑じゃ…」
「ちんたら歩かれた方が迷惑だから、早く乗って」
こんなときまで、素直になれない自分にも腹が立つ
「あ、うん。失礼します…」
躊躇いながらも、陽菜は俺の背中に体を預けてき、陽菜を背負って歩きだした
「怪我、辛いだろうけど、城に着くまで我慢して」
「うん。ありがとう。」
家康の背中に感じる陽菜の体は、かなり冷たかった。
長時間、雨のなかを逃げ回っていたし、陽菜は病みあがりだから、もしかしたら風邪をひくかもしれない。
ふと、背中に先ほどより重みを感じた。
逃げ回っていた緊張が解けたのと、歩いている揺れで、陽菜は家康の背中で眠りについたらしく、寝息が微かに肩にかかる
「……陽菜、本当にごめん…」
寝ているときにしか謝罪できなくて、本当に自分がずるいと思う
「城に着いたら、ちゃんと…謝罪するから……」
そう、自分に言い聞かし、城まで歩いた。
雨はもう上がっていた