第25章 近くて遠い恋《11》家康side
「念のため、その野党をみた家臣から、姿形を聞いておけ。今、連れてくる」
「……わかりました。」
――パタン……
光秀さんが部屋から出て、襖を閉める音がやけに響いた気がした。
今川家の奴らが生き残っている………
信長様が、叩き潰したはずなのに………
幼い頃の記憶が、一気に頭のなかを駆け巡る。
それと同じに憎悪、嫌厭、遺恨などの気持ちも溢れだした。
あいつらが俺にした仕打ち………忘れたことはない。
俺の前に現れたら、次こそ……………
右手の手のひらをじっと見据え、グッと力をいれて握る。
程なくして、光秀さんが家臣を連れ、野党の姿形、そのときの状況などを聞いた。
「…わかりました。では、俺はこれで…」
思いのほか、話が長くなり、気づけば昼すぎになっていた
「(陽菜のこと、だいぶ待たせてるな…)」
「あぁ。また何かあれば伝えよう」
「はい。」
光秀さんの部屋を出て、早足で廊下を進み、城門を出てから、御殿までの道を走った。
朝晴れていた空は、今では怪しい雲行きになっていた。