第25章 近くて遠い恋《11》家康side
パタパタパタ………
陽菜が部屋から出ていき、廊下を走る音が聞こえ、それもだんだん遠退いていく。
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『悪いけど、今日は帰ってくれない。急ぎの仕事思い出したから』
『……時間作って、くれたのに、、ごめん、な、さい……』
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「……くそっ!」
グシャっ!
持っていた紙を握り締める
「…完全に八つ当りじゃないか………」
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『あ、政宗。私、手当てしに行こうか?』
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陽菜の前で、誰かが怪我したなど言ったら、陽菜があぁ言うのはわかっていたことだ……
安土に来てすぐに、香菜の怪我を心配していたし。
いや、そうじゃなくて
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『私だったら時間もあるし…』
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陽菜との時間を楽しみにしていた俺には、かなりきつい言葉だった。
あの状況だと、陽菜なら『勉強はまた今度でもいい?』と言ってくるだろう。
俺だって政宗さんの家臣を心配しないわけではないが、稽古中の怪我なんて、武士にとっては日常茶飯事なことだし……
政宗さんも慌てていなかったから、大怪我でないことは、すぐにわかった。
政宗さんが出ていったあとも、陽菜が襖の方をジッと心配そうに見ていただけが気にくわないなんて……
これぐらいのことで、普段なら機嫌が悪くならないが、朝、光秀さんに言われたことが、こんなにも自分を正常にさせないものと思わなかった。