• テキストサイズ

真鍮の寂び(銀魂:銀時夢) 注:非恋愛

第1章 真鍮の寂び


海辺と言ってもビーチと呼べる面積は小さく、二世帯家族が数組ほど訪ればすぐに溢れてしまうほど狭い。周りの地形を見てみると、海と接している地は切り立った崖で、どこも地上から海面までの高低差は二メートルほどある。素人向けの飛込み台のような高さだ。そんな崖の一部を巨人がかじり取ったように半円状の砂浜ができていた。まだ朝日を浴びていなくても真っ白だと分かるほど砂は綺麗だが、あいにく砂浜も崖の下。梯子がないと上り下りが大変なのは一目瞭然だった。これに年寄りや子供が間違って転落してしまえば、恐らく這い上がってこれないくらいのレベルなのは確かだ。

そんな娯楽性の低いビーチの側に、白い長方形が横たわったような建物が建てられている。窓は全体的に大きく設置されているようだが、白いブラインドで閉じられて中の様子は伺えない。朝霧もまだ濃く、とても閉鎖的な雰囲気を漂わせている。

銀時はとりあえず横長の建物と平行駐車してトラックから降りた。かなり辺鄙な所を選んで建てているようだが、幸い車移動が邪魔になるような大きな植物や岩はなく、あるとしてもくるぶしほどの高さまでしかない雑草だ。舗装こそはないが、車は余裕をもってハンドル操作が出来た。

外の空気は未だ冷たく、潮の匂いを運んでくる海風がさらに冷気を身に沁みさせる。暖房の効いたトラックから出てきたため、余計に温度差を感じた銀時は身震いを一つしてさっさと建物の中へ入ろうとする。デザインは素朴だが、劇場で見かけるような観音開きになる立派な二枚の戸の片方を開けると、中から暖かい空気、そして記憶よりも強烈な匂いを放つ筆洗器に入った古い灯油が銀時を迎え入れた。

お登勢からは聞いていたが、依頼人は本当に鍵をかけないらしい。もともとアトリエは絵を描く作業場なので、一般人が欲しがるような金目の物はない。さらに絵に興味がある人たちが見学できるよう一般公開もしているため、鍵をかける習慣はなかったそうだ。今回は銀時が来ることも知っていたため、あえて開けっ放しにしていたのだろう。それでも強盗に襲われたばかりなのだから少しは警戒心を強めた方が良いと銀時でさえ思うのだが、それすらも依頼人の人柄を表すものなのだろう。
/ 13ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp