第1章 小さな恋心
きっと、笑って惚気話をするはずだと高林さんを見れば何故か困ったような、なんとも言えない表情をしていて私は戸惑う。
「一応いますけどねー」
「とても可愛い彼女ですよ」
「へー!見たことあるの?」
「はい〜ありますよー」
「っ!」
高林さんからの視線を感じて見れば驚愕したように目を見開いていた。え、何その反応と逆に私が目を丸くしてしまった。高林さんはたまに、彼女をつれてお店まで買い物に来ていたのだ。見たことない方が不思議だと思うくらい職場では認知されている事なのに。
「いいじゃん高林さんー!可愛い彼女さん持ってさー!」
「・・・・・・ははっ、そうっすね」
「・・・・・・」
(・・・なんでそんな)
見たことない沈んだような表情に無理矢理作った笑顔。どうしてそんな顔をするのだろう。まるで彼女の事を余り言いたくないようなそんな様子に私は困惑する。
「一瀬ちゃんは?」
「えっ・・・」
私に振られて言葉を詰まらせる。私が今、1番聞きたくない、言いたくない話しなのだけれど・・・どう、答えたらいいのだろうか。迷いながら考えていると大宮さんは、どう受け止めたのかニッコリ笑って私の肩に手を置いた。
「もしかして気になる人いるの?」
「・・・・・・そう、ですね」
目の前に────。
なんて、言えないから笑って頷くのみにした。その様子をみて何かを察した大宮さんは、そっかと優しく笑って肩を軽く叩く。何だか一瞬だけ泣きたくなってしまった。
「・・・・・・どんな人なの?」
「・・・えっ?」
珍しく踏み込んだ質問に目を見開いて固まった。私がこの手の話を避けているのを彼は知ってるはずだ。だから、今までの会話でも触れてくることはなかったのに。ジッと見つめてくる視線に私は耐えきれなくなって、逸らした。
「な、なんですか急に〜知りませーん」
おどけたように肩を竦ませて言ったけど彼の表情は全く変わらない、何だろうこの空気。
(困る・・・なんか、嫌だな)
「さっ、私は帰りますね!お疲れ様でした!」
話を無理矢理終わらせようと笑顔で言って、その場から逃げるように去った。深い溜息を漏らして額に手を当てる。彼が全く分からない。混乱する。