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あなたに届け

第1章 小さな恋心


こうして会話している時は楽しくてふわりと心が暖かくなる。自然と笑顔になってしまう。これは彼のいい所なんだろう。皆を明るくさせるのだ。けど、これ以上関わっちゃ駄目。


「さっ、私は帰りますよ?お疲れ様でした。」


笑顔で言えば彼は何故か慌てはじめた。今日は本当にどうしたんだろう?おかしな彼だ。前まではこういうのも話の中で触れていたはず。だけど今はそれも言いにくくなってしまった。それは私の中の気持ちが変わってしまったから。


「ほんとに帰るの?」


「なーに言ってるの帰りますよ。お疲れ様」


いつもの彼の冗談とあしらうように言って、扉を開けた。振り返って彼を見る。彼は私をジッと見つめていた。ドクンッと心臓が鳴った。


(っ・・・)


「お疲れ様でした」


誤魔化すように笑って扉を閉めた。深い息を吐く。なんであんなふうに・・・分からない人。今日は特に分からなかった。彼は焦ったような顔をしていた。何か言いたげなそんな顔。考えて首を横に振る。やめよう、考えても多分そこまで大事な事じゃない。だって私と彼はその程度の関係なのだから。


胸がズキンと痛む。


「・・・やっぱり帰ろう」


買い物も今日はやめて早く帰って寝てしまおう。溜息を漏らして携帯を見れば母から連絡が来ていた。調味料を買ってきてほしいとのこと。結局買い物しなくちゃいけないのかと思いながらお店に向かった。カゴを取って買ってきてほしい調味料を確認する。


「みりん、酒と後は塩コショウか・・・」


きっと今すぐに使いたい調味料なのだろう。早く買って帰った方がいい気がする。足早に調味料を取ってカゴに入れてレジに行く。人が並んでいて、少し時間がかかりそうかも。適当な場所に並んで待つ。


「よろしければこちらにどうぞ」


視線を向ければ、若い男の人がレジを空けて待っていた。軽く会釈をして、カゴを渡す。初めて見る人だなぁと思いながら彼を見ればパチリと目が合ってしまった。


(あ・・・)


「お疲れ様です」


「あ、お疲れ様です」


何となく気まずくなって目を逸らす。ジッと見てしまった。失礼な事をしちゃった。お会計を済ませてお釣りを受け取る。軽く会釈をしてもう一度顔を見ればまた目が合った。
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