第1章 小さな恋心
「いいよいいよ、俺が・・・」
「高林さーん!!」
「ほら、呼ばれてますよ。」
ナイスタイミングと思いながらそそくさと扉を開けて外に出る。高林さんがこっちを見ていたけれど気づかないふりをする。深い深い息を吐いた。
「ドキドキした・・・」
正直な心臓は今もドキドキ言っている。何でこんなに反応するのなんて悪態をつきながら作業場の扉を開けた。
(上手く話せていた時はどう話してたっけ・・・?)
自然と目を合わせて笑ってたはず。今の私は凄く不自然に決まってる。けど・・・彼はそんなこと気にしてないだろう。そこまで気にする関係でもないんだから。
「持ってきましたー」
「ありがとう!ごめんね?」
「いえいえ、大丈夫ですよー」
持ってきた資材を指定の場所に入れて片付ける。これであと少しで仕事も終わる。事務所に彼はいるだろうか。いたら嫌だなと思いながら時計を見る。退社時刻の五分前だ。
(もう会いたくない)
早めに着替えて早めに帰ろう。そう決意にも似た思いで帰る準備をする。お疲れ様でしたと挨拶をして作業場を出た。いませんようにと祈るような気持ちで扉を開ける。
(いない・・・良かった)
ホッと安堵の息を吐いて退社の記録をつけて更衣室に行く。買い物してから帰ろうかなぁ・・・。どうしようか悩みながら着替える。疲れたから早く帰りたいけど、少し甘い物も食べたい気がする・・・飲み物も買いたいし。やっぱり買い物していこう。
ロッカーの鍵を閉めて更衣室を出る。事務所の人に挨拶をして事務所の扉を開けた。前に進んだ瞬間誰かとぶつかってしまい慌てて顔を上げればハッと目を見開いた。
「あれ、もう終わりー?」
「・・・そうなんですよ〜」
会いたくない時に限って会うなんて、誰かの嫌がらせなのかと思いながら笑顔で話しかけてくる彼に笑って頷いた。違和感なく話せているはず、大丈夫。
「最近早くない?」
「?そうですか?」
いつもと同じと思いながら首を傾げれば彼は納得いってないような表情を浮かべていた。その表情にこちらが戸惑う。
「そうかなー」
「ふふっ、なんでそんなに納得いってないんです?」
あまりにも不満げに言うものだから面白くて笑ってしまった。そんなに気になるくらい早く終わったつもりはないのに。