第1章 小さな恋心
誰にも知られたくない気持ちがある。けど・・・一人で抱えるには苦しくて辛くて泣きたくなるそんな思い。この気持ちが報われる日が来る事はないって分かっているのに、消すことができない。
彼女がいるって知ったのは最近のこと。職場に彼女を連れてきていた姿を偶然発見してしまった。皮肉な事にその時自分の気持ちを自覚したのだ。
傷は浅い、そう思ってた。すぐにこの気持ちも消えてなくなるって思ってた。けどそれは違うんだって事を理解したのは彼を見るたび痛む胸が何よりの証拠。
なにも望んではいない。彼の彼女になるなんてことも全く思っていない。けど泣きたくなるこの気持ちはどうしたらいいのだろう?
楽しいって思っていた会話が辛い。だから私は彼を避けるようになった。
もともと部所が違うのだからそんなに会うことはない。こちらが会わないようにすれば彼を見ることもない。弱虫で臆病な私はこうするしかないんだ。
「はぁ・・・」
今日はこれで何回目の溜息だろう?何回目かも分からないくらいきっと溜息を吐いてる。良くないなぁ・・・と思いながらもまた溜息を漏らした。悪循環。
(今日は早く帰ろう・・・)
こんな日はきっと良くないことばかり呼び寄せる。小さく深呼吸をして、残りの時間頑張ろうと気を引き締めた。
「一瀬ちゃん、申し訳ないけど資材持ってきてもらってもいい?」
「あ、はい!分かりました」
申し訳なさそうなエリさんに笑顔で頷く。作業場から外に出て、事務所前に行く。そこにいつも資材が来ているはずだ。扉を開けて見てみればやはり資材が来ていた。
(意外と沢山あるかも・・・)
そのまま持っていこうかと思って、他にも資材がないか確認していると、視界に陰が出来た。顔を上げ姿を見た瞬間ドクンと心臓が正直に反応した。
「資材取りきたのー?」
「あ、高林さん・・・」
笑顔で声をかけてくる彼に私は引きつった笑顔で返す。今は会いたくなかった。早く作業場に帰ろう。資材の荷物を乗せた台車を持ち動かそうとすると高林さんの手が台車を掴む。
「・・・え?」
「重いよ、持っていこうか?」
どこまでも優しい人。誰にでも優しい彼は紳士だなんてよく言われてたなぁ・・・。その親切も今は辛い。私は精一杯の笑顔で大丈夫と断る。前までは冗談を言い合っていたのに今は出来なくなってしまった。