【跡部】All′s fair in Love&War
第15章 夏の魔物に連れ去られ(中編)
「だって跡部はカミサマじゃないから、全てを見通すことは出来ないもの」
努めて明るく言ってみると、跡部が隣で座り込む。あたしも座ろう、と腰を下ろすと、少し待て、とタオルハンカチを敷いてくれた。
「跡部の手の届かない所、苦手な所を補う為のチームワークでしょ?そしてあたしが今日倒れたのは、ただ、あたしの見通しの悪さのせいだよ」
――ヒヨにもさっき怒られたの、そう言うと、あいつも随分心配していた、と教えてくれる跡部。そっか、ヒヨもあたしの倒れた所見てたんだっけ。と言うことは一緒にお屋敷に帰ってきたんだ、と言うことは――!!
跡部が抱えて帰ってきたのよ、と茉奈莉ちゃんに言われたのをこのタイミングで思い出し、途端に顔に熱が集まってくる。
「…あの、跡部サン。あたし、重くなかった?」
急にごにょごにょと口篭り、膝を抱えてそう言ったあたしに、跡部はハッ、と鼻を鳴らした。
「俺様を誰だと思ってるんだ、アーン?松元の一人やふたり、重いわけがあるかよ」
「そ、そうですか、あの、その節はどーも」
二人で軽口を叩いて笑い合う。良かった、もういつも通りだ。もう戻るか、と立ち上がる跡部に少しの寂しさを覚えながら、あたしも立ち上がる。
「おい松元、手を貸せ」
「は、へ!?」
急な事に間抜けな声を出したあたしの腕を掴み、また転げられたら心臓がもたねぇんだよ、と笑って先を歩き出す跡部。振り払うことなんか、出来るわけがない。
明るい所に出る前に何とか赤くなった頬を元に戻さなければ、と、ゆっくり深い呼吸を繰り返すあたしに気づいているのかいないのか、跡部は機嫌よく笑みを浮かべながら、元来た道を戻っていく。
すっかり高くなった月が、繋がれた手元を蒼白く照らしていた。