【跡部】All′s fair in Love&War
第15章 夏の魔物に連れ去られ(中編)
ぽーん、ぽーんとリズミカルな音が響いていて、あたしは何処かうとうとと微睡むような心地で、その音の主たちを眺めている。
宍戸とちょたがコートを出ていった後、極自然な流れで始まった跡部とヒヨの打ち合い。長く続けるのが目的らしいそれは、たまにヒヨが仕掛けるように返しにくい球を打つ――が、涼しい顔の跡部に難なく返され、ヒヨが苦虫をかみ潰したような表情を浮かべること以外は凄く平和だった。
まるで、先程までの諍いが嘘のよう。最近代替わりのバタバタで忙殺されていたけれど、皆テニスが大好きな同士で、仲良く出来ない筈が無いんだよね。
ぶぶ、と持っていたスマホが震え、画面を見ると茉奈莉ちゃんからの返信。先ほどの顛末を報告していたのだ。親指を上げりょーかい!と言っているスタンプ一つ、その可愛いキャラクターが何処かジローちゃんと被っていて微笑ましくなる。二人に言っておいたら、ここに居ない忍足やがっくんにも伝わって、きっと皆上手く宍戸に対応出来るだろう、と一安心。
そしてあたしはまた、ラリーの応酬に目を移した。日陰に居てもじっとりと汗が滲んでくる、日向で動き回る彼等の体力は底無しらしい。まだまだ終わらないのだろう、と結論付けて、用意していた二人分のドリンクとタオルを傍らに置き、先程からの微睡みに身を任せる。
もっとみていたい、という気持ちと裏腹に、頭と視界にモヤがかかっていく。熱い空気が身体を余すことなく包み込む、風も感じられない。蝉の声だけが頭の中に反響して、その向こう、遠くの方にテニスボールの弾む音。意識が閉じるその瞬間、跡部と目が合った気がした。