【跡部】All′s fair in Love&War
第14章 夏の魔物に連れ去られ(前編)
「宍戸、テメェの焦りなんかは俺も理解しているつもりだ…だが、個々の能力は日常の練習でも、何なら自主トレでも高められる」
跡部の声色が、話し方が、聞かなければならない、と思わせるような空気を創り出す。皆がそれに呑み込まれたように、音も立てずに跡部の次の言葉を待っている。
「皆が集って同じ時間を共有する事でしか、生み出せない物もあるだろうよ…俺達は飽くまで同じ物を目指す同志だ、敵じゃねぇ」
その言葉に、宍戸が俯き唇を噛み締める。実力主義の氷帝テニス部では、チームワークとか周りを思いやる気持ちなんかが段々濁ってしまいがちだ。元々は仲の良い先輩達が、レギュラー争いでギスギスしていくのを見ていた事を思い出す――あたしも、皆にはそうなって欲しくない。
そして宍戸は身を翻し、ゆっくりとコートを出ていく。ちょたが追いかけようとするから、宍戸を宜しくね、と声を掛けると、はい!と、いつも通り小気味よい返事が返ってきた。