【跡部】All′s fair in Love&War
第12章 秘密は砂糖より甘い(後編)
午後五時を回った校内は、たまに運動部の声が聞こえてくる以外、昼間の喧騒が嘘のように静かだ。
テニス部部室の前に誰もいないことを確認し、あたしは駆け出す…誰にも見られないように最速の動きで、あたしを悩ます例の包みを持って。
跡部が放送で言っていた箱達の上には高くチョコレートが積まれ、その中でも一際大きい山がある。名前を見なくても、もう誰の物かは分かっている。
――ごめんね、一昨日のあたし。
本当は直接渡して、日頃の感謝なんかを伝えたかった。きっと可愛くなんか言えないけど、それでもチョコの力でいつもより素直に言えると思った。喜んでくれる顔が見たくて、ワクワクしながら選んだのだけど、結局あたしは意気地無しだ。
チョコには勿論名前を書いたりカードを入れたり、なんてしていない。あたしからとはわからないから、あの放送通りだと捨てられてしまうのだろう――それでも、他の誰かにあげる気になんて、もう更々なれなかった。日を改めようか、とも思ったけれど…この気持ちもきっと萎んで、家に置いたきりになるだろう。
箱の端に、崩れ落ちないようにそっと手に持った包みを置いた。
ぴぴっ、とホイッスルの音が、部室を挟んで向こうのコートから聞こえる。練習もそろそろ終わるだろう。正レギュラーの皆に渡すチョコを持って…その中には、跡部の分も入っている。ここに存分に思いをこめよう、そう考えながらコートに向かった。