【跡部】All′s fair in Love&War
第9章 carnival night!
――祭りの後の静けさ、と言うやつか。校舎内はひっそりと静まり返っていた。ボロボロになった装飾品なんかが床に落ちて、明日の掃除は大変そうだ。
生徒達は後夜祭が行われるグラウンドに集まっており、時折歓声が聞こえてくる。
俺は一人、真っ暗な廊下を守河を探して歩いていた。
――ねぇジロちゃん…『俺の物』って、どういう意味で言ったんだと思う?
声を潜め、そう聞いてきた松元を思い出す。
――そりゃ、言葉通りじゃないの?そういう意味でしか使わないでしょ、
そう返すとぼん、と音を立てるかのように一瞬で顔を赤らめ、嬉しそうに笑っていた。たまに彼女は守河と俺を羨ましい、と言うけれど。俺からしたら、余程跡部と彼女が羨ましい。
素直に好意を示せない、けど傍から見ていたら分かりやすい。恋をしている松元は、別に「そういう意味」で好きなわけじゃない、俺から見ても可愛かった。跡部は気付いているのか、いないのか?けれど、今日のメイド姿をたまにじっと見ていた気がする――どーせアイツも、素直になれないだけ。
なかなかくっつかない二人は微笑ましくもあり、焦れったくもあった。――俺の方にも、事情はあるし。
「…全くラインも見てないしー」
守河からは何の応答もない。ずっと一緒にいたはずなのに、久しぶりに会ったテニス部の先輩に自分だけ雑用を押し付けられ、そのまま文化祭終わりのゴタゴタに巻き込まれ、見失ってしまった。確か先輩は朝倉…と言ったか?名前も覚えていないような先輩だったが、流石に無視するような事も出来ないのが体育会系の辛い所だった。
「後はやっぱ、ここかなー」
もし、守河が俺を探してくれているとしたら。辿り着く先は保健室だろう。今なら保健委員もいないだろうし、サボり放題のはず…
がらり、とドアを滑らせる。カギはかかっていなかった。