【跡部】All′s fair in Love&War
第8章 carnival day!(後編)
「ねーねー、そこのメイドさん」
校舎までは後少し、という所で急に呼び止められ、立ち止まる。振り返るとニヤニヤと手招きをしている男子生徒二人…上履きの色的に、三年の先輩だ。下卑た声が嫌な感じだったが、氷帝の生徒であることにひとまず安心し、そして先輩のいう事を無下にも出来ず近寄る。
「何ですか?」
「や、ちょっと話しよーよ」
しゃがみこんでいた先輩が、ぐっと私の肘の辺りを掴む。突然強く引かれ、私までしゃがみ込むと、先輩の顔はもうすぐそこだった。驚いて身をひこうとするも、がっちりと掴まれ大して動けない。そして漂う甘くて苦い…煙草の臭い?
「ちょっ…!あたし、急いでるのでっ」
「お、サービスショットじゃん!」
姿勢を戻そうと膝を伸ばすと、スカートが思いもよらずばさり、と跳ねる。中に仕込んだパニエのせいでひらひらと動きやすくなっているのを忘れていた――見られた?思わず、先輩の意図通りしゃがみ込んでしまう。
「ちょ、ほんとに、急いでるんですって…」
「いーじゃんいーじゃん、メイドでしょ?ご奉仕してよ」
ゲラゲラと二人して笑いだし、空いていた片方の腕ももう一人に強く掴まれる。いよいよ身動きが取れなくなった、いつも男子生徒ばかりの環境に居るけど、こんな気持ちになったことは無かった――
――こわい、
「先輩方、ソイツは俺の物なので離して頂けますか」
「げっ…生徒会長の跡部、」
背後からよく知っている声が聞こえた。流石に生徒会長の顔は知っていたらしい二人が、あたしの手を離し立ち上がる。
「…先輩方、何をされてたんですか」
いつも低い声が、ドスが聞いて深みを増している。それだけで空気がすっと変わったような感覚。先輩達もそれは同じだったようで、私だけの時とは違いすっかり縮こまっているように見える。
「べ、別に何も…なぁ?」
「あぁ、通りかかったこの子と話をしようとしてただけで…」
「…今のやりとり、一部ですが、動画に撮っておきました。嫌がっているソイツの声も入ってます…とっとと失せな!!!」
跡部が声を荒らげ言い放つと、二人がヒッ、と声を上げて凍りついた――こんなヤツらにビビらされて、情けない。