【跡部】All′s fair in Love&War
第7章 carnival day!(中編)
――さて、二人には暫く頑張って貰うとして。あからさまに安心した表情で跡部がこちらにやって来る。
「助かったぜ、ジロー」
「ねーそれよりさぁ、松元に何か用事頼んだりしたー?」
「いや…俺様はしてないが、」
そこで、跡部も異変に気付いたようで。ゆっくりと辺りを見渡した――何処にも、松元はいない。
「おーとり」
「あ、ジローさん…と、跡部さん、」
「何か知ってんの?」
すいません、と鳳はわかり易く項垂れる。
「何故テメェが裏方にいやがる」
「お、俺…松元さんが悲しんでるのが見えて、一人だけ着飾って居ないのが寂しいんだと思って…メイド服を着て仕事をしたらどうかって提案したんです」
ぴくり、と眉を釣り上げる跡部。まぁまぁ、と嗜めるように肩に手を置くと、分かっている、と言うように腕を組んで、鳳の話の続きを待っている。
「うんうん、で?」
「もう二十分程前に部室に着替えに行かれたので、代わりに裏方についていたんですが…なかなか松元さんが戻られなくて。探しに行こうかと思ったんですが裏方の仕事もなかなか落ち着かなくて、困っていた所なんです」
ばっと頭を下げ、俺も松元さんのメイドさん姿が見たくて…と呟く鳳。――うんうん、素直で宜しいけど最後のは完全に余計な一言だよ。
「…鳳」
それまで黙っていた跡部が口を開く。にやり、と笑いながら。
「テメェの行動は考え無しで頂けねぇが、美意識には同感だぜ」
「…それって、跡部さん」
鳳の問いには答えず、窓の外を眺める跡部。裏庭の向こうには部室が見える――そして、裏庭の木の影にひらりと蝶のようにたなびく黒いリボン。
「…出てくるぜ」
「おー、いってこーい」
「ジロー、寝るなよ。店番頼んだ。鳳は責任を持って裏を回しつつ、たまには表の様子も確認しろよ」
「は、はいっ!」
後輩には甘いよねー、跡部は。――怒られなくて良かったねー、と言うと、何故か鳳は照れた表情を浮かべていて。そして、跡部さんって、やっぱり?なんて尋ねてくるものだから、聞こえないフリをしておいた。