【跡部】All′s fair in Love&War
第5章 ゆく川の流れはたえずして
「勉強だけでも手一杯なのにさ、おまけにテニスのルールも覚えなきゃだし」
「それは、マネージャーやったらお願いしたい所やなぁ。望んで入ってきたんやし、しゃーないんちゃうか」
失礼な話だが、そこにきて松元はフツーだった。話の内容も良い意味で中学生らしいし。顔も年相応の幼さを残している。スタイルもこれから大人になろうか、という所。
可愛いはカワイイんやけど、これなら友人だと言う守河さんの方が――そんな事を思っている間も、跡部の視線を痛い程感じる。
「やだ、違うよ。自分から入ったんじゃないよ?茉奈莉ちゃんに無理やり連れてこられたと思ったら、ジロちゃんにたらしこまれて、跡部に無理やり入部させられたの」
「…そーなんや?」
――あの跡部が?マネージャー希望の女子達をガンガン辛辣に追い返していく姿をよく見ていた。300人の大所帯である氷帝テニス部は、万年マネージャー募集中だ。何故ルールも知らない松元を入部させたのかはずっと疑問だった。相当ご執心のようだが、彼女の何処にそこまでの魅力が?
「でもさ、みんなほんとにテニスが好きなんだね!」
「…え?あ、まぁ…せやね」
「こんなキツい練習にも耐えてさー。その中でも、忍足くんは特にそうだよねっ」
――俺が?きょとんとしている俺に、松元はさらに続ける。
「親元から離れて、一人で知らない場所で頑張ってさ」
――ちょっと待ってや、
「友達もいなくて心細いのに、こんな実力主義の部活で頑張れるのって、ひとえにテニスが大好きだからなんでしょ?」
違うの?と無邪気に聞いてくる松元。その顔がまともに見れず、目をそらす。
「おい、テメェら。いつまで油売ってやがる」
「何よ跡部!休憩中の話くらい好きにさせなさいよっ」
そして、とうとう我慢しきれなくなったらしい、跡部がこちらにやって来た。――分かってしもたわ、お前の気持ち。
「なぁ、跡部」
「…アーン?なんだ、忍足」
「俺と試合、してぇな」
跡部はしばしの間俺の目を見た。多分泣きそうになっている、熱くなった俺の目を。そして漸く、コートに入りな、と小さく言ったのだ。