【跡部】All′s fair in Love&War
第5章 ゆく川の流れはたえずして
「あーぁ、また勝ってもうたわぁ。岳人くん、やっけ。すまんなぁ」
「くそくそっ!いけ好かねぇやつ!いつかぶっ倒してやるからな!」
テニスをするため、氷帝学園中等部に推薦で入学が決まっていた俺は、体験入部の時点でそれはもう調子に乗っていた。同い年の奴らはてんで相手にならない。
残念ながら正レギュラーの諸先輩方とは戦えていないが、それも時間の問題だろう。監督も俺に一目おいているのはわかっている。
――天下の氷帝学園も、こんなもんかいなぁ?
わざわざ春休みを返上して早めに東京に出てきたというのに、全く退屈な日が続く。そんなある日、俺は初めてと言っていい程の挫折を味わう事となる。
「おいっ…何なんだよ、あの一年っ」
「正レギュラーを倒しちまったぜ!」
正レギュラーのコートから聞こえてきた、焦りや感嘆の声。覗いてみると、俺と背格好の変わらない少年が三年の正レギュラーに膝をつかせていた。
「…何や、アイツ」
「おー、あとべ!!!帰って来てたんじゃん!」
ジローが駆け寄っていくと、彼はゆっくりと振り向いた。自分と同い年らしい、まだ幼さを残すが、鋭い眼をした少年。
「おう、ジロー。久しぶりだな」
「なっ?ジロー、知り合いかよっ」
「そー、あとべ。俺の小さい時からの知り合いなんだぁ」
――テニスもすっげー強いんだぜっ!そう笑うジローに皆がほお、と息をついて彼を見つめる、その姿に思わずイラッとする。なんで俺がさしおかれてんの?なんやかんや言うて、俺の方が強いんちゃう?
「跡部クン、俺とも相手してぇな」
「…なんだ、てめぇ」
「俺な、この春からココに通う予定の忍足って言うねん」
――ここにいる皆よりは良い試合出来ると思うで?そう言うと、跡部はわかり易く顔を顰めた。ギリ、と俺を睨みつけてくる。なに何、俺なんかしたん?
「…いや…今はやめておく」
「えー、なんでなん?俺ともやろやぁ」
「やらねぇっつってんだろ」
ヘラっと笑ってみせる。これでいつもなら、悪い空気なんかは跳ね返せていた筈だった――しかし更に機嫌が悪くなったのを隠そうともせず、苛立った声で跡部が言い放った。
「お前を見てると、やる気が失せるんだよ」