【跡部】All′s fair in Love&War
第38章 恋と戦争に手段は問わない(後編)
走って搭乗口に向かう。もうニヤけたらいいのか、泣いたらいいのか分からない。今、鏡があれば、きっと見たことも無い表情の自分がいるに違いない。
恋愛映画ならここで想いを伝え合って、抱き合って――なんてのがセオリーなんだろうけれど、私達のやり取りはもっとスリリングでバイオレンスで、戦争映画やスパイ映画の方がしっくり来るな、なんて考えたら笑えてくる。
戦いに敗れた主人公は一年間の修行期間を経て、無敵になって帰ってくるんだ。そうしてまた戦いを挑んだら、次は勝てるだろうか。ちゃんと好きだ、とこの胸の内を打ち明けられるだろうか?
「じゃあ、お父さん、お母さん…行ってくるね」
「着いたらまずメールするのよ、頑張ってらっしゃい」
「行っておいで…千花」
両親と別れの挨拶をして、独りで飛行機に乗り込む。やっと見つけた自分の席について、一人の空間になるとやっぱり、どうしようもなく泣けてくる。だってもう既に、会いたいんだもの、だけど――
跡部は約束を違えない。待ってる、と言ったら待っててくれる、それは今までの日々が証明してくれていて、何の疑いも無い。
つい先程までの不安や自虐は形を潜めて、数え切れない程の予感は本物だったのだと、まるで答え合わせのように一つ一つの瞬間を思い返す。たった一つの言葉にこんなに浮かれて、なんて現金なんだろう、と自嘲する。そうしてこれから、私は再会の日を待ち侘びて暮らすのだろう。
もう二度と負けてたまるか、跡部なんかに、そして自分にも。決着が付くのは、一年後。