【跡部】All′s fair in Love&War
第36章 恋と戦争に手段は問わない(中編)
そうして暫く視線をかち合わせていただろうか、いよいよその時はやってきて。ロビーに大きく響き渡るアナウンスが、松元が乗る飛行機が間もなく搭乗開始である事を告げた。
松元はさっと顔を伏せ――そして次に顔を上げた時には、痛々しいまでの満面の笑みを浮かべて。そしてくるり、と後ろを振り返る。
「みんな、そろそろ行くね!お見送り、有難うっ!」
大きな声を上げ、大きく手を振り。柄にも無く涙を流して別れを惜しむ奴らに笑いかけ、そしてまたこちらを向いた。その顔に、まだ貼り付けられたままの笑顔。
「…あとべ、ありがとっ…また、ね」
俺様の横をすっと、通り過ぎる松元。その姿に、ある光景を思い出した――夏の、最後の大会でも。こいつは泣かずに、笑って皆を先導していた。
小さな確信を持って、松元を呼び出した休みの日の朝。目もくらむような朝焼けの中泣き叫ぶ松元を、俺様の前で感情をさらけ出すその姿を、美しい、と思った。泣けないのなら、泣かせてやろう。笑えないのなら、笑わせてやる、そう思って、ずっと壊れ物に触るように接して来た。
――今も、そうであるなら。
また確信めいた決意を持って、俺様は口を開く。何度も呼び慣れた名前を、その背に向けて、呼びかける。
「松元」
急に張り上げた声にびくり、と、大袈裟な動きで。ぴたりと歩みを止めた松元が、この先独りで泣く事が無いよう、気が済むまで泣かせてやりたいと思った。この際、俺様の恥も外聞もどうでもいい。
タイミングを見計らうように、いつもしているスピーチの様に、大きく息を吸い、貯める。一番効果的な、その時を待つ。他でもなく、自分の吐く言葉で、その心に楔を打ちたいと、ずっとずっと、焦がれていたのだから――
「好きだ」