【跡部】All′s fair in Love&War
第32章 おわりのそのまえに(中編)
「へぇ、厳しいのね、榊先生」
「怒ったらそりゃーもうこえーんだからな!でもテニスはすっげーうまいから、まぁ仕方ねーなー、って感じ」
守河は時折相槌を打ちながら、俺の話を笑って聞いてくれる。それだけで俺は有頂天になっていた。もしこれも夢ならどうしよう、なんて怖くなる程に、楽しくて仕方がない。
「余程テニスが好きなのね」
「そー、ちょー好き!オレからテニス取っちゃったら、多分なーんも残んない…ねー、守河はもう部活とか決めてんの」
テニスの話から、そのままの勢いで守河の話に切り替える。守河は少し言い淀んで、美術部に入るつもり、なんて煮えきらない返事が返ってきた。
「…つもり?そんなに定まって無い感じならさ、マネージャーに来てくれよー!」
「マネージャー…?テニス部の?」
「そーそー!マネージャーになるには、部員の推薦がいるんだ!俺が推薦すればきっとオッケーだしー!」
突然の事で、困っているだろうな、と思いつつ。ここで止まれない、と言葉を繋ぐ。こんなに頑張ること、テニス以外ではないな、なんて自分に苦笑する。何故こんなにこの子に執着するのか、多分誰に聞かれたって答えられない。ただ、顔を見るだけで胸がざわつくんだ。
そんな俺の必死めいた願いがとどいたのか、少し考えあぐねていた様子の守河がふわり、と笑った。
「ねぇ、それって、もう一人誘ってもいいの」
「んー、大丈夫だと思うー。万年募集中だ、って皆言ってるしー」
「なら、1年A組の松元 千花ちゃんと、今日テニス部の見学に行かせて貰うわね」
やっと貰えた了承の言葉に、俺は思わず大きくガッツポーズを作る。松元、とは入学式で一緒にいたあの子だろう。A組だと跡部と一緒のクラスだし、顔見知りだろうから話もしやすい。
「宜しくね、芥川君」
「あ、それやだー」
すぐにスマホを取り出して跡部に連絡しようとする俺に、そんな声がかけられる。その呼び方に、少し距離を感じ、口が尖る。急にこんな物言いをしても、守河なら許してくれるだろう、と思った――それは正解のようで、守河は何故、と問いかけるような目線をこちらに向ける。
ただそれだけで嬉しくて嬉しくて、仕方がない。自分でも、おかしくなったんじゃないかと思う程。