【跡部】All′s fair in Love&War
第31章 おわりのそのまえに(前編)
「あーあ、結局入学式出れなかったしー」
いつもの寝ぼけぐせは、大事な入学式の日ですら健在だった。兄弟も両親も諦めているのか、登校時間が来ても起こそうともしない――今日は跡部が迎えに来てくれていたようだったが、やっと覚醒した時には先に行くぞ、なんて無情なメッセージがスマホに残されていた。
適当にあった食べ物を口に突っ込んで、学校への道を歩く。入学式、とは言え幼稚舎から通いなれた、勝手知ったる道だ。先生も俺のことはよく知っているし、入学式に遅れてきたからと言って気にもしないだろう。
もぐもぐとパンを咀嚼していると、目の前すれすれを黄色い蝶が飛んでいった。心許ないふわふわとした線を描いて飛ぶ、その姿を何となしに目で追う――そして中庭の向こう、入学式を終えて講堂から出てきたらしい人波の中に、彼女、を見つけた。
周りの男子がヒソヒソと耳打ちをするのを、まるで気にもせず。少し俯いて歩く彼女は、恐ろしい程の美人だった。そんな事は気にも止めず、誰とも目を合わせようとしない彼女が、俺の目の前を通り過ぎていく、その瞬間。
「いたいたっ、茉奈莉ちゃーんっ!」
その声に、弾かれたように勢いよく振り返り。呼び声の相手を見とめ、破顔した彼女は、先程までより遥かに綺麗で。俺は全く目を逸らせないまま、茉奈莉って言うんだ、なんて考える。駆け寄ってきた友人らしき女子生徒と連れ立って教室へと向かっていく彼女をぼんやり見送りながら、普段は全く興味がない神様に祈る――どうか、同じクラスにして下さい!!と。
テニスの試合中のような、痛いほどのドキドキに襲われながら。そこで漸く、思い当たる――俺は、何処に行けばいいんだっけ?