【跡部】All′s fair in Love&War
第29章 はじまりのつづき(中編)
「ミカエル、級友の松元 だ。送ってやってくれ」
「かしこまりました」
「初めまして、ミカエルさん…松元 千花です、宜しくお願いします」
「宜しくお願い致します、松元様」
目を細めるミカエルは、確かに松元を気に入ったようだった。俺達の荷物を受け取り、扉を開け車中へと促す。そして松元の自宅の大まかな場所を確認すると、滑るように車を発進させる。
車中での時間はあっという間に過ぎた。会話は思いの外盛り上がり、時間が経つのも忘れる程だった。そこで彼女が英語を学びたがっている事、だから俺に興味があった事を聞く。今まで向けられていた視線にも納得が行ったと共に、何処か物足りなさも感じた。
車を下りる松元を見送る。また月曜日に、という言葉を交わし、じわり、と心の中に何かが満ちる。
「良いお嬢さんですね、ぼっちゃまが『ひとめぼれ』されるのも頷けます」
「…そうか?さして美人だったり、器量が良い訳では無いけどな」
ミカエルの前で取り繕っても仕方が無い、と素直に答えると、何故かミカエルが不満そうな表情を浮かべた。
「松元様は決して不美人では無いと思いますよ。…そうですね、魅せ方を未だご存知で無いのでしょう」
どういう意味だ、と問わなくても、俺の表情から感じ取ったのだろう、ミカエルは説くように語り続ける。
「ぼっちゃまの周りにいる女性は、例え同年代の方であっても、人前に立つことに慣れた方が多いのですよ。そういった方は自分の魅せ方――例えばお化粧やファッションで、ご自身の魅力を際立たせる方法をご存知です。しかし松元様は、そう言った環境に身を置いて居られません」
「…俺様は、けばけばしい女に興味は無いぜ」
「勿論、見た目の話だけに限りませんよ。所作や言葉遣いもそうです。松元様は素直で真っ直ぐで、そのままでも大変魅力的ではありますが――これから歳を重ねられ、お勉強をされたり沢山の方と出会われたり、或いは…恋愛を為さったりする中で、きっと益々お綺麗になっていかれるでしょう」