【跡部】All′s fair in Love&War
第3章 君は美しい僕の女王
守河と松元の後ろを距離をとってついていく。会話がギリギリ聞こえない一定の距離を保つ。女子特有の甲高い笑い声がたまに聞こえてくる以外は、内容は聞こえない。
それでも楽しそうな守河の様子から、目を離したくないと思いながら。傍から見たらおかしいんだろうな、通報されないかな、なんて自嘲した。
松元の家の近くの公園まで来たら、そこで時間を潰すのがいつもの決まり。そこから守河の気が済むまで松元とお喋りをして、終わったら俺と落ち合って、守河の家へ帰る。
――オトコノコの中では、ジロちゃんが一番好きだよ。
…じゃあ、女の子も含めたら?俺の問いかけは、綺麗な綺麗な笑みで有耶無耶にされた。でも、聞かなくても答えなんて分かっているつもりだ。
「わっ、ジロちゃんっ」
考えに耽っていたのか、こちらに来ていたことに全く気づいていなかった。後ろから守河の声がして、俺は乗っていたブランコから飛び降りた。
「夕日が髪の毛に反射して、キラキラ光ってて綺麗ー!ジロちゃん、天使みたいね!」
それこそ天使がいるとしたら、きっとこんな笑顔をしているだろう――守河は俺に抱きついてくる。そして、飛んでっちゃうかと思ったぁ、と小さな声で呟いた。
――こんな事するのは、ジロちゃんだけよ。
初めてキスした時も、小声でそんな殺し文句を呟いたんだ。それを思い出して、俺が唇を寄せると、当たり前のようにキスをくれる守河。――松元にも、こんな事したいの?そう聞いたら怒るだろうなー、なーんて。
「守河、かえろっか」
「そうねぇ、遅くなっちゃう」
やっと笑って俺の隣に立ってくれる守河を疎ましく思うことも出来ない。松元を恨むのも筋違いで、むしろ彼女は好ましい友人だ。かと言って、守河の思いが届くことを願うことも出来ない――もうずっと宙ぶらりんにされた気持ちは、突然指を絡めてきた守河によって今日もあやふやにされる。このままでもいいから、ずっと隣にいれればいいのに、なーんてね。